黒川精一

黒川精一

常務取締役 第1編集部編集長

「2年連続ミリオンセラーを出した日本唯一の書籍編集者」と業界にその名が轟く。時代を読む目と圧倒的な量のトライ&エラーによる緻密なデータに基づいた大胆な編集技法は必見。

血液型:O型
出身地:東京都
好きな食べ物:お寿司(特にウニとノドグロ)
好きな家事:皿洗い
動物に例えるなら:猫(犬が好きだが、自分は気まぐれ)

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本を「プロデュース」
するのが編集者の仕事

黒川精一

「編集」という仕事の本質は、「本や著者をプロデュースすること」と言えます。

「この人の一番よいところは何だろう」という視点で人を見て、それがどのように、誰かの問題解決につながるかを考えます。

僕はいくつかの他の出版社を経て、2015年にサンマーク出版に入社しました。これまでに『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』(Eiko著/小社刊)をはじめ、3冊のミリオンセラーを手がけました。

僕が手がけたベストセラーの多くは、日常生活での具体的な問題を解決する「実用書」と呼ばれるもので、「やせる」「健康になる」「料理をする」という目的のための「やり方」を指南する内容です。

ダイエットにせよ、健康、料理にせよ、いくら効果があっても、手段である「やり方」が面白くないと、読み手のやる気は出ません。この、目的と手段の2つどちらも魅力的にするためにはどうすればいいか、といったことをいつも考えながら、本づくりをしています。

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「どうやったら、
もっとよくなる?」
という好奇心が
ヒットの芽になる

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「著者の一番いいところを見つけ、本という形にすること」が編集者の仕事、と言いましたが、それと同時に、自分が感じる「不便」や「不満」「不都合」に敏感であることも大事だと思います。たとえば僕自身は、「わかりにくい説明書」がゆるせない(笑)。「ここにこの一文があればわかりやすくなるのに!」なんて、つい改善案を考えてしまいます。2021年のヒット作『DROP MOTION 下ろすだけダイエット』(石村友見著)は、そんな僕の”改善グセ“がきっかけになって生まれた企画です。

たとえば筋トレで言うと、スクワットや腕立て伏せなどで「筋肉が鍛えられる」のは、周知の事実ですが、「体を持ち上げる(上に起こす)動き」って、しんどいものですよね。「そのしんどさや不快さをゼロに近づけつつ、変わらぬ効果を得られたらいいのに……」そんな思いが起点となって、著者と研究を重ねた結果、それを実現できる「下ろすだけ」というキーワードにたどりつきました。「下ろすだけでやせるなんて!」というおどろきを、読者に提供するわけですが、僕はよく「意表をつく正解」という言葉を使います。ただキャッチーだったり、奇抜なやり方というだけじゃなく、それが「正解」である必要があるということ。あ、その手があったか!と意表をつきながら、後から考えてみると、たしかにそれが正解である——それが「意表を突く正解」です。

『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになる方法』という本をつくったときには、その前例のない切り口に「開脚したい人なんてどれくらいいるの?」という反応が社内にもあり、いい意味で意表をついたものになりました。でも、意表をつくだけなら誰でもできるわけで、それを「正解」にしなくてはならない。実際に効果があるものでなければならない。本として、しっかりとした内容のつくりこみをすることは必須です。

結果としてミリオンセラーとなり、多くの方に受け入れてもらえたということは、それが「正解」だったということだと思います。著者と一緒に勉強しながら、メソッドを開発し磨き抜く粘り強さが、大きなヒットには不可欠だという気がしています。

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仕事のここがおもしろい!

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言ってみれば、編集者って「究極のおせっかい業」です。頼まれもしないのに、「この著者のこのメソッド、面白いですよ」と、広くおすすめする仕事ですからね。

だから、自分がおすすめしたものを誰かが楽しんでくれたり、喜んでくれたりしたらとてもうれしいことです。

ゼロの状態からつくったものが、やがて「1」になり、それが読者の皆さんのおかげで「100」になり、やがて「1000」「10000」になる……。「そのプロセスを自分がつくり出せた」という喜びが、編集やプロデュースという仕事の一番の醍醐味です。

「究極のおせっかい」を成功させるためには、そのコンテンツによほどの魅力がないといけません。だから「人が見たくなる」「人が欲しくなる」というレベルにコンテンツを磨き抜かなくてはならない。ここが、編集者の頑張りどころで、ここで本の強さが決まってくるわけです。

でも、この苦しさこそ、僕たちのコンテンツ力を養うことにつながっているのも事実です。強いコンテンツは、人に伝播していきます。話題になってメディアに引っ張りだこになり、タイトルが流行語大賞になったりするものもありますよね。

本が売れるのはもちろんですが、こうして自分が生み出したコンテンツが、多くの人たちの共感や喜びを拾い集めながら広がっていくことこそ、“コンテンツ屋”の喜びだと思います。

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出版界は「フェア」。
年齢も経験も
社名すら関係ない
「コンテンツ勝負」

出版界には、大きな特徴があります。それは、誰でもヒット作を仕掛けられるということ。

ほとんどの読者は、本の「中身」だけで買うかどうかを判断します。つまり、出版社の社名や、それを手掛けた編集者の年齢やキャリアは、購買意欲にほとんど影響しない。

これほどフェアな世界はあまりないはず。ですから、入社して2~3年目ぐらいの若手編集者が、突然ベストセラーを出す、ということも多々あります。

もちろん本づくりの技術は、キャリアに伴って磨かれるものもありますが、それと「ヒットするかどうか」は別問題です。実際、サンマーク出版でもミリオンセラー『モデルが秘密にしたがる体幹リセットダイエット』(佐久間健一著)をつくったのは、当時26歳、編集者歴3年の女性でした。

職人さんの世界では「10年、20年やって一人前」ということもあるでしょうが、その法則は出版業界にはあてはまりません。さらに言うと、出版社自体の規模も、ヒットを飛ばせるかどうかにあまり関係がありません。

たとえばクルマの世界であれば、小さな自動車会社が、業界最大手に勝つことは、難しいはず。でも出版業界の場合、年間ベストセラーにランクインするような作品を、僕たちのような約50名規模の会社が生み出すことは十分可能なのです。

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「本をつくる」編集者から
「本もつくる」編集者へ

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サンマーク出版は、コンテンツをつくりたい人にとっては、とてもいい環境だと思います。僕自身、数社をわたり歩いてきましたが、よくそう感じます。

そもそも、僕たちの編集部では、ほぼ100%自分で企画・編集しています。つまり自分が企画しない限り、仕事がないという状態です。企画の種を探すのもテレビや新聞、ネット、人それぞれですから、若い人ならYouTubeやTikTokなど、普段使っているあらゆるものが発掘現場となるかもしれませんね。

さらに、いまは書籍という枠にとらわれないコンテンツづくりに、編集者はもちろん部署の垣根を越えたいくつものチームが取り組んでいます。著者の「いいところ」を本だけでなく多方面に展開する「コンテンツ360°展開」と呼んで、実際にいくつものプロジェクトが成果を上げています。

そのひとつである「ペンギン飛行機製作所」では、キャラクタービジネスに取り組み、『ぺんたと小春のめんどいまちがいさがし』が17万部を突破、Twitterフォロワー数も10万人超となり、SNSでも人気を集めています。僕たちが生み出した愛らしいキャラクター「ぺんたと小春」が、本やグッズはもちろん、企業とのコラボレーションによってさまざまな場所で広がっていくことにワクワクしながら、次の展開を準備しているところです。

学生へのメッセージ

サンマーク出版は、直近20年間で、8作のミリオンセラーを出してきましたが、これは会社の風土が数字に表れたものだと僕には思えます。

というのも、編集者のアイデアで生まれた企画も、編集者がひとりきりで本をつくることは不可能で、部数が大きくなればなるほど、関わる人たちの協力や支援が不可欠になるから。船で例えるなら、最初は企画した編集者だけが乗っていた船に、営業部や製作部などが乗り込み、次第に宣伝部など他部署も乗り込む。団結して、船をみんなで漕いでいくことになります。遠くにある50万部、100万部という場所にひとりでたどり着くことなど到底できません。みんなで漕ぐから、たどり着ける。

つまり、8冊のミリオンセラーがあるということは、僕たちが何度も何度も、団結してきた証です。

編集者の使命とは、「新しい才能を世に送りだす」ということです。若く伸びやかな感性で、次に世に出る新しい才能を見つける人が、この船に乗り込んでくれることを願っています。

黒川精一
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